3月2日
今日はコックの誕生日らしい。
朝飯を食った後、船尾で寝ていると腹の鈍い痛みで目が覚めた。
「ちょっと、ゾロ!!」
「何しやがんだ。」
不愉快な目覚めに俺は目の前の奴にすごんだが、目の前の女にはそんなことは通用しない。
「なんだじゃないでしょ!」
ナミが呆れたようにため息をついてやがる。
ため息をつきたいのはこっちだ。
「あんた、今日が何の日か覚えてないでしょ。」
今日?
何かあったか?
「あんたにしたら、今日が何日なのかさえも関係ないんでしょうね。」
そう言いながらまたため息をついてやがる。
「特別に教えてあげるわ。」
「教えた後に金を取るんだろ。」
「えぇ、もちろん・・・って失礼な男ね!!取らないわよ!!今日だけ特別よ。」
今日じゃなけりゃ、結局取るんじゃねーか。
「今日は何日?」
「さぁな。」
「2日よ、2日!!3月2日!!」
「それがどうした。」
「本当にわかんないのね。」
「だから何が。」
さっさと言いやがれ。
もちろん口に出しては言わねぇ。
言った日には、次の日の朝日が見れることはねぇ。
「サンジ君の誕生日よ。」
・・・
あぁ。
そうか。
コックの誕生日か。
「で、もうすぐ島に着くんだからプレゼント買ってくんのよ。」
「あぁ?」
「わかった?」
おい、ナミ。
目がすわってんぞ。
俺にそれだけ伝えるとナミはさっさと行っちまいやがった。
プレゼントねぇ。
そんなもん。
と思ったがきっとあのコックのことだから喜ぶだろう。
他の奴からのプレゼントで喜んでやがるコックは気にくわねぇ。
それで結局町に出てプレゼントになりそーなモンを探してるんだが
これがなかなかみつからねぇ。
何がいいんだ?
食いもんか?
いや、あいつはコックだ。
首につけたり、腕につけたりするもんか?
いや、好みがわからねぇ。
「兄さん、何かお悩みかい?」
「あぁ?」
振り向くと花屋の前に老婆が一人。
「お悩みかい?」
老婆が同じ質問をしてくる。
「あぁ。誕生日にやるもんをな。」
「恋人の誕生日かい?」
老婆がにこやかに聞いてくる。
「あぁ。そんなもんだ。」
「それは大切な日だねぇ。大体あげるものは決まってるのかい?」
「いや。」
「花で言葉を伝えるって言うのはどうだい?」
老婆が花屋の店の中に入っていく。
ゾロも老婆に続いて店の中に入った。
色々な花の匂い。
色とりどりの花。
「普段恋人に大切な言葉を言ってるかい?」
「・・・・・。」
「花にはね、花言葉って言うのがあるんだよ。」
「花言葉?」
「そう。一つ一つの花によって違う。同じ花でも色によって違うこともある。」
花言葉。
聞いたことがねぇ。
サンジなら知ってるか。
「花と一緒に言葉を送る。どうだい?」
花か。
普通だが、悪くはねぇな。
それに
花言葉ってのも気になる。
「花言葉ってのは、どんなもんがあるんだ?」
「そーだねぇ。真実。清純。尊敬。真実の愛。色々あるねー。」
「この花の言葉はどんなだ?」
近くの赤い花を指して聞いてみる。
「あぁ、チューリップの赤かい?それは愛の告白だよ。」
「後どんな花があるんだ?俺は花の名前がわからねぇ。いいのはねぇか?」
「わかったよ。何種類か選んであげるから。待ってて。」
老婆はにこにこと花を選び出した。
赤、白、ピンク、黄色。
老婆が色々な種類の花を抱えてきた。
「さー、どんなのがいいんだい?」
「長い間咲いてるのはどれだ?」
「そうだねー。どれもそんなに差はないけれど。あー、でもドライフラワーって言う方法があるよ。」
「ドライ・・・?」
「ドライフラワー。花を乾燥させるんだ。」
「それをすると長くもつか?」
「乾燥させるからしおりになるよ。」
「どれでもできんのか?」
「そうだねぇ。どれでもできるといえば出来るけど。出来やすいのと出来にくいのがあるねぇ。」
「これの花言葉は?」
赤い、花びらが何重かある花。
「バラの花言葉は愛情。」
「これは何だ?」
「マーガレットは、真実の愛。」
老婆が抱えている花の中で茎が細い花に目がいく。
「これはなんだ?」
「これはローダンセ。永遠の愛。」
小さいが、喜ぶかもしれねぇ。
何十にも重なったピンクの花びら。
細い茎。
「これくれ。」
「これにするかい?じゃあ包むけど、どれ位?」
「この金で包めるだけ包んでくれ。」
「はいよ。」
紙に包まれて大きな花束が出来ていく。
「はいよ。出来た。ありがとよ。伝わるといいねぇ。恋人さんに。」
「あぁ。」
老婆に礼を言って店を出る。
毎日一緒にいるが、愛だのなんだのは言わねぇ。
だがこの花で少しでも何かが伝わればいい。
別に伝わらなくてもかまわねぇ。
あいつが喜びさえすれば。
それでいい。
買った花束を持って船に帰ると、コックは出かけているらしい。
花束を隠してキッチンに行くとナミとロビンしかいない。
「ちゃんと買ってきたのねー。」
「あ?」
何かを作っている最中らしいナミが話しかけてくる。
「大きな花束。」
「綺麗ね。」
「・・・・・。」
「照れちゃって。」
「チッ。」
見てやがったのか。
・・・・・・。
寝るか・・・。
「ちょっと、ゾロ。サンジ君もうちょっとで帰ってくるかもしれないんだから、寝ちゃだめよ。」
チッ。
お見通しってか。
「ちょっと、ゾロ。突っ立ってないでこれそこに並べて。」
「なんで俺が」
「え?何か言った?」
口は笑ってるが、目が笑ってねぇ・・・。
チョッパーが見たら、失神すんぞ。
その笑顔。
それからは、これを運べだのもっと綺麗に並べろだの。
色々こき使いやがって。
結局寝れねぇ。
その時。
「ねぇ。あの向こうから歩いてくるのサンジ君じゃない!?」
「そうみたいねぇ。」
「大変!!ルフィ!!ウソップ!!チョッパー!!帰ってきたわよー!」
男部屋にいたんだろう。
三人が下から上がってきた。
「ほら、一人一つずつクラッカー持って。サンジ君が上がってきたら紐を引くわよ。」
「もう来そうか?」
「もうちょっと。あ、今下。・・・・・今よ。」
パーン!
音と共に色とりどりの紙ふぶきが舞う。
「サンジ!おめでとう!!」
「ふふっ。おめでう、コックさん。」
「サンジの誕生日会だ!!」
それから、コックの誕生日会、いわゆる宴が始まった。
料理を食べて、酒を飲んで、コックの空になったコップに酒をついで。
コックがケラケラ笑ってやがる。
もう出来上がってんのか?
お、チョッパーがなんか持ってきやがった。
「?どした?チョッパー。」
「これ、プレゼント。」
「プレゼント!?うわー・・・ありがとな、チョッパー。」
コックがうれしそうに受け取った。
チョッパーからのプレゼントは
花が繋がって輪になった・・・なんつーんだ、あれ。
「あ、そうそう。私からも。」
ナミからも、青色のリボンがかかった箱。
「あ、俺もー。」
「俺からもあるぞー。」
「はい、コックさん。」
「ありがと、うれしい!!」
マジでうれしそうだ。
・・・・・・。
ワラウナ・・・・・。
ソンナニウレシソウニワラウナ。
・・・・・・。
なんだ、これ。
なにか、ドロドロしやがる。
チッ。
胸くそわりぃ。
「ゾロ!あげなさいよ!」
「!?」
ナミが叫んでやがる。
台所の端に隠した昼に買った花束を持ってサンジの前へ。
ボーっと俺の顔を見てるサンジの顔に花束を押し付ける。
「ん。」
人にプレゼントなんかしたことねぇ。
どんな顔だ?
さっきみたいな満面の笑みってやつか。
・・・・・・・。
何期待してんだ・・・。
・・・・・・・。
船尾で飲みなおすか。
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